![]() | インタビュー:JUKI株式会社(東京都多摩市) |
| ■ | 世界トップシェアの技術を擁するグローバル企業。地域連携も重視してさらなる発展 |
総合企画部 広報グループ
大武絵都子氏
総務部副部長
木村康二氏
総務部部長 SDGs推進室室長
山田隆士氏
JUKI株式会社といえば、工業用、家庭用ミシンの開発製造販売で世界に名を馳せるグローバル企業です。特に工業ミシンの分野では世界トップのシェアを誇り、各国の多くのアパレルメーカーで同社製のミシンが使用されています。また、ミシンに加えて、産業装置製造や、他メーカーから受託する多様な製品の開発・製造・加工等の事業、自動倉庫による部品や小物商品の入出庫、管理の自動化など、さまざまな分野でのものづくりや協業等も同社のコア事業となっています。
JUKIは、2009年に東京都多摩市に移転、現在の本社屋を構えました。同社が展開する多角的な事業の内容、この地を選んだ背景や地域の魅力、つながりなどを取材しました。
「当社の前身は1938年に発足した『東京重機製造工業組合』です。東京都を代表する機械メーカーが出資し、小銃などの軍用品を製造していました。戦後は軍需産業に活用していた工作機械を使ってミシンづくりにシフトし、家庭用ミシン、工業用ミシンのメーカーとして発展しました」(木村氏)
同社がグローバル企業へと成長し、工業用ミシンで世界トップシェアを達成する足掛かりとなったのが、1969年に開発した「自動糸切り機構」です。縫い終わりに糸切りボタンを押すと上下の糸がカットされる機能が備わったため飛躍的に利便性が向上し、縫製工場の生産性を爆発的に引き上げました。この機構の登場によって、現代のファストファッションに象徴される、高品質で手ごろなアパレル製品が生まれたともいわれています。
この後には縫製事業以外の分野にも進出し、本格的な多角化へシフト。1987年には、PCや現代のスマートフォンなどに搭載されている基板を生産するための装置・チップマウンタの開発を行う「産機事業」、2015年には他社製品の多様な開発・製造・加工などの「受託事業」、2024年には、電子部品を保管・管理する自動倉庫の活用範囲を広げ、高額素材、商品を管理する自動倉庫システムを提供する「ストレージ事業」を展開するに至りました。
また、海外展開を得意のフィールドとしており、中国、ベトナム、インドでも製造・開発を行っています。工業用ミシンは世界各地の縫製工場で使用されている一方、家庭用ミシンはB to Cであり、ソーイング作家とのコラボやSNS、イベントなどを活用した一般ユーザー向けのプロモーションも積極的に実施しています。
「産機事業では基板製造ラインの装置をトータルで提供し、顧客の工場ラインソリューションを支援しています。受託事業は国内外の当社のグループ会社、工場と連携し、お客様の要望に応じた製品・部品の開発・設計・製造をワンストップで対応しています。また、最も新しい事業であるストレージ事業は、自動倉庫のIoT連携によるデータ管理や、お客様の生産活動における効率化・自動化といったニーズに寄与できる点が強みです。さらに、宝石・医療分野など他業種にも展開しています」(大武氏)
同社が多摩市に移転する前に本拠地としていたのは、同じ都内の調布市国領町。当初は営業、開発、販売、製造工場などはほぼ調布に集積していましたが、事業拡大と共に全国、海外へ販売事務所や工場が分散、開発拠点も世田谷に分かれていました。しかし、本社と開発部門の連携を強化し、一体となって業務を推進できる環境を整えるべく、移転を決定しました。
「創業当初より、拠点が調布にあったことから、従業員の多くが調布・狛江市内や京王線沿線、その近隣に在住していたため、できれば京王線や小田急線でアクセスできる場所、調布・狛江市からさほど遠くないエリアに絞り、移転先をリサーチしました。広大な敷地が必要だったことから、おのずと候補地は都下・多摩エリアが中心となり、企業誘致を行っていた多摩市の提示する条件などを総合的に判断して、現在の多摩市鶴牧に本社屋を建設することを決断しました」(木村氏)
そんな多摩市の優位性としてよく取り上げられるもののひとつに、自然災害に対する強靭さがあります。多摩市は海岸や大きな河川から離れているため、津波や洪水被害等の心配がほとんどありません。さらに東京都の『地震に関する地域危険度測定調査』では、市内のほぼ全域が、各種危険度判定で5段階評価のうち最も危険性が低いとされる“ランク1”に区分されており、耐震性の面でも優れているのです。
地震に対しての強さは、はからずも2011年3月の東日本大震災で実証されました。多摩市では最大震度5弱を観測しましたが、JUKI本社はさほど影響を受けなかったといいます。
「本社建設時、地盤を掘削して地下2フロア分のスペースを設け、研究開発用の実験室を配置したのですが、そこでは地震発生時もほぼ揺れを体感することがなかったのです。BCP(事業継続計画)の点でも、多摩市が適地であることが確認できました。多摩市には大手通信企業が、インターネット用のサーバやデータ通信、固定・携帯電話などの装置を設置・運用する巨大なデータセンターを設けており、その事実からも多摩市の優位性が分かります」(山田氏)
また、交通利便性の良さも長所とのこと。JUKI本社の最寄りである多摩センター駅には、新宿から京王線・小田急線と2路線の直通電車が乗り入れており、新宿からはいずれも30分ほどの近さです。さらに同駅は立川方面に接続する多摩モノレールの始発駅でもあります。
「4車線化が進む南多摩尾根幹線道路が近いほか、中央自動車道の稲城、国立府中の両インターへのアクセスに優れていて車での移動が便利な点も長所だと思います」(木村氏)
多摩市に本社を構えた2009年以降、JUKIには人材採用の面で予期していなかった“移転効果”が生じているといいます。
「中途採用の募集を行うと、特に地域を限定しているわけではないのですが、子育てなどの事情で一時期仕事から離れていた、地元多摩市在住の主婦層の方が応募されるケースが増えていきました。事務系、ものづくり、開発など多様な職種に応募いただき、いずれも元々高いスキルを持っている方が多いため、採用後にはかなりの戦力になっていただけるケースが少なくないのです。多摩市は都内でも屈指の住宅地が形成されており、その点では“人材の宝庫”とも言えるんですね。しかも、多摩市在住の方は徒歩や自転車通勤も可能なので“職住近接”も実現できる。ワークライフバランスの面でも理想に近く、雇用する側・される側、双方に好影響が生じています」(山田氏)
人材確保に加えて、地元多摩市への地域貢献や交流活動も特筆できます。2009年の移転以降、近隣小学校の社会科見学を受け入れ、2010年からは継続的に実施。ショールームで工業用ミシン・家庭用ミシン・産業装置の主力機種の見学や、家庭用ミシンを使って小物に刺繡入れをする体験は好評だそうです。
コロナ禍に見舞われ、全国的にマスクが不足した2020年5月には、栃木県の大田原工場を特別に稼働させ、洗って再使用できる布製マスクを製造。多摩市教育委員会を通じ、市内の小中学生向けに10,500枚を配布しました。
「この非常時に地域のために何か役に立てることを、との思いから取り組みました。非常に多くの感謝の声をいただきまして、我々としてもうれしい想いでいっぱいでした」(山田氏)
さらに、JUKIは多摩センター地区連絡協議会に加盟し、地域清掃や防災訓練に参加。地域企業や住民と協力した防災活動を行っているほか、市内の近隣企業数社と定期的な企業懇談会や連絡会を開催し、情報交換を実施しています。加えて、多摩市役所が進める産業振興マスタープランの策定に推進委員として参加し、進捗を継続的にウォッチしているとのこと。SDGsやESD(持続可能な開発のための教育)関連の意見交換会にも年1回参加し、地域の教育活動に協力しているほか、脱炭素やクリーンエネルギーの推進、市による太陽光補助金制度について意見交換など、幅広い活動を行っています。
世界トップシェアの事業を展開するグローバル企業である一方、地域の今~未来への貢献などCSR活動にも積極的に取り組むJUKI。今後もさらなる発展が続きそうです。
公開日:2025年(令和7年)12月2日
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会社名: JUKI株式会社 -
所在地: 東京都多摩市鶴牧2-11-1 -
代表者: 代表取締役社長 成川 敦
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設立: 1938年(昭和13年)12月15日 -
事業内容: 工業用ミシン/産業装置/家庭用ミシンの製造 他 -
ホームページ: https://www.juki.co.jp/

