ico_imgインタビュー:株式会社ニフコ(東京都大田区)

電池不要の機構設計をベースに多様な地域課題のソリューションを提供

廣野耕之助氏
株式会社ニフコ Life Solutions Company コネクテッドビジネスユニットエキスパート 廣野耕之助氏
 

ニフコはプラスチックファスナーの製造・販売を目的に、1967年に創業された老舗メーカーです。「プラスチックファスナー」は、手のひらに乗るサイズのプラスチック製の「留め具」です。今日では、プラスチックファスナーだけでなく、サイズも機能も多種多様な製品を世界中のお客様へ提供しています。主要供給先は自動車産業で、国産車1台当たり20,000~30,000点ともいわれる全部品点数のうち、ニフコ製の部品は700点以上使用されています。

 

加えて同社は、住宅設備、家電・OA、アパレル・スポーツなど自動車産業以外の分野にもプラスチックファスナーの技術を活用した製品を提供しています。なかでも最も新しい領域が「IoTソリューション」です。

 

ニフコはこの領域の拡充を主目的として、2021年にHANEDA×PiOに入居。敷地内での実証実験に取り組み、その結果を展示、発信するショーケースとしてHANEDA×PiOを活用しています。同社のLife Solutions Company 廣野耕之助氏に、IoTソリューション事業の内容や展望、HANEDA×PiOの魅力や、この立地ならではのメリットなどを取材しました。

●自動車から暮らしまで多彩な領域に製品が浸透
ニフコのプラスチックファスナー
様々な用途に対応するニフコのプラスチックファスナー。ちなみに、現在ニフコが保有する知的財産権は出願中含め全世界で約3,400件※2024年3月末現在(画像提供/ニフコ)
カップホルダー
小型ダンパーの技術が活用されている自動車のカップホルダー

まずは、ニフコ全体の事業概要から紹介していきましょう。現社名の「NIFCO(ニフコ)」は、創業時の社名「日本工業ファスナー株式会社」(Nippon Industrial Fastener Corporation) の頭文字を取ったものです。

 

プラスチックファスナーは「つなぐ・束ねる・結びつける」という役割を担う小さな「留め具」です。プラスチック製ですので、錆びない・軽い・扱いやすい という特長を持っており、取り付け・取り外しが簡単です。プラスチックファスナーは、従来の金属製のボルト・ナットに置き換わることで製造現場の生産工程における省力化やコストダウンに大きく貢献してきました。

 

やがて、自動車業界の発展とともに多くの自動車にニフコ製品が搭載されるようになると、プラスチックファスナー単体だけでなく、ユニット製品へ移行することで売り上げを大きく伸ばしてきました。現在では、環境規制に対応した燃料タンクシステム向け製品や、より高度な設計能力が求められるエンジン・トランスミッション関連、ADAS(先進運転支援システム)やEV関連など、次々とアイデアと技術力のつまった製品を生み出しています。

 

また、電気などの動力を使用せずに滑らかな動きを実現するダンパー、プッシュオープンの利便性を世界に広めた浮き出しラッチなどもニフコの製品です。

 

「元々当社は、電気を使わずに動きを制御する高度な“機構設計”を得意としており、これがダンパーやラッチ開発の背景にもなっています。ダンパーやラッチは車室内のカップホルダーやグローブボックスなどにも使用されています」

 

さらにニフコの製品は、自動車だけでなく、暮らしに密着している住宅設備、家電・OA、アパレル・スポーツなどの領域でも活躍しています。

 

「例えば、住宅設備では、地震発生時に吊戸棚の扉が開いて物が飛び出すことを防ぐ耐震ラッチや、引き戸や扉をゆっくりと最後まで引き込むクローザーなどがあります。家電・OA用品ではプリンターなどの操作パネルに使用されるフリーストップヒンジ、アパレル・スポーツ関係ではバックパックのベルトの脱着や紐の調整に使用するバックル、ジャケットやスポーツシューズの紐を締めるコードロックなどもニフコの製品です。

 

実は、自動車のカップホルダーに使用されている小型ダンパーは、元々は家電製品向けに開発されたものでした。電気を使わずに滑らかな動きで高級感を醸し出すダンパーの機構を、自動車のカップホルダーにも組み込み、実用化したのです。当社独自の技術を活かして付加価値の高い製品を作り、新たな価値を生み出す。このようにして独創的な製品を提案することで、私たちはお客様の抱える要望や課題に応えてまいりました」

●酷暑の日本を救う、ICT/IoT技術を活用した「熱中症予防対策システム」を構築
無線・電池レスデバイスのデモ機
廣野氏が持っているのが「無線・電池レスデバイス」のデモ機。ボタンを押す・指を離すと電波を発信し、タブレット内の箱のイラストが開閉する
熱中症予防対策システム
横須賀市立の中高24校に本格導入されている「熱中症予防対策システム」は、中央のWBGT(暑さ指数)測定器(黒い球が付いている機器)と、無線・電池レスデバイスで構成されている(画像提供/ニフコ)

そんなニフコの、最も新しい事業領域が「IoT Solution」です。同社は2020年から東日本電信電話株式会社(NTT東日本)と丸紅情報システムズ株式会社と協業し、ドイツの通信規格である「EnOcean」のICT/IoT技術を活用して、多様な地域課題の解決や低炭素社会の実現に向けた取り組みを行っています。

 

「2021年11月にHANEDA×PiOに入居し、3社のコラボレーション・ショールームを開設しました。ここに展示しているのは『無線・電池レスデバイス』を活用した、福祉・防災などの分野における社会課題解決の仕組みです。この仕組みの核となる無線・電池レスデバイスは当社が開発したデバイスで、カチカチとボタンを押した時と、ボタンから指を離した時に発電して電波を飛ばすことができます。電池などの電源は不要なので、充電のし忘れや手間を省けるのはもちろん、電池切れで正しく作動しないといったリスクを回避できます」

 

既に、自然災害発生後の避難所での避難者人数把握や、地域児童の下校の見守り、土砂崩れの検知、高齢者の在宅中・外出時の見守りなどに活用すべく検証を進めているとのこと。直近の取り組みでは、2025年6月に神奈川県横須賀市との共同事業で「熱中症予防対策システム」を始めており、このデバイスを学校現場に導入、実際に稼働させています。

 

「横須賀市は2024年4月に独自のガイドラインを策定し、市立学校での熱中症予防対策を強化していました。ただ、教職員が実際に校庭や体育館に移動して熱中症指数計を使い、手動で暑さ指数(WBGT)を計測しなければならず、大きな負担になっていたのです。また、測定の方法や地点などの条件によって計測結果にばらつきが生じていた上、紙に記録していたために情報共有が難しい、などの課題もありました。そこで、当社の無線・電池レスデバイスを屋内センサーとして使うことでWBGTを自動計測し、クラウド上にデータ保存するネットワークを構築。結果、端末やスマホによって、いつでもどこでもリアルタイムに数値を確認し、全教職員が共有できるシステムが完成したのです。現在、横須賀市立の中高24校に本格導入されており、教育現場における子どもたちの健康・安全を守るために役立てられています。以降は小学校にも導入を拡大していく予定です」

 

なお、この熱中症予防対策システムは、一般企業においても活用できるように、現在複数企業での実証実験が進められています。2025年6月1日から改正労働安全衛生規則が施行され、職場での熱中症対策が強化されたことや、近年の全国的な酷暑もあり、ニフコの無線・電池レスデバイスを活用したソリューションは、さらに注目を集めることになりそうです。

●実証実験、新規事業紹介、商談の場として理想的な環境
無線・電池レスデバイスで高齢者の見守り
靴や杖などにセンサーを埋め込んだニフコ製品を取り付け、無線・電池レスデバイスで高齢者の見守りをする実証実験も進めている
コラボレーション・ショールーム内
コラボレーション・ショールーム内には、無線・電池レスデバイスを活用した、社会課題解決の仕組みを説明するパネルが多数展示されている(画像提供/ニフコ)

最後にHANEDA×PiOの魅力をお伺いしました。

 

「IoT Solutionの事業を進めていく上で、実証実験で得られる結果は非常に大切な要素になります。その意味で、HANEDA×PiOには精緻な実証実験を行う環境が整っていることが大きな魅力です。以前、他の入居企業と協働して、入退室する人数の検知や、トラックの荷捌きスペースの満空状況を可視化する実験を行い、有意義な手応えを得ることができました。また、PiO PARK内ショーケーシングエリアで無線・電池レスデバイスの事例紹介を行った際に、来場者から体験の充実度や製品理解に関するアンケート回答を得たことも大きな収穫でした。当社製品の魅力を体感的に伝えると共に、実際の反応や様々な意見を得られたため、普及・認知拡大に役立つ材料が入手できたのです。さらに大田区からご支援をいただけることも長所です。大田区内で実証実験可能な場所をご紹介いただいたり、先述した横須賀市の熱中症関連システムを他へつないでいただいたりという連携が生まれています」

 

また、大田区はものづくり企業が集積する街です。まだ地元企業との具体的な協業には至っていないそうですが、大田区を介して複数の企業を紹介してもらうなど、今後につながるマッチングにも満足しているとのこと。重ねて交通利便性の良さも魅力です、と廣野氏は言います。

 

「HANEDA×PiOは、神奈川県横須賀市にある当社本社と、東京都港区三田の当社管理部門のほぼ中間地点にあってアクセスしやすいですし、なおかつ京急の天空橋駅直結、羽田空港がほぼ隣にあり、お客様もお招きしやすい立地です。各地で実施した実証実験の成果を、まとめて紹介できる場として理想的ですね。羽田空港はもちろん、都心からのアクセスも良いこの場所で、新規事業の紹介から商談までを行っています」

 

さらに大田区内に拠点を持っていることは、将来の事業拡大や採用活動にもプラス効果があると考えているそうです。

 

HANEDA×PiOから独自技術を活かしたソリューションを発信し続けることが、ニフコのさらなる発展につながりそうです。

公開日:2025年(令和7年)11月20日

【企業概要】
  • 会社名:株式会社ニフコ
  • 所在地:■コラボレーション・ショールーム
    大田区羽田空港1-1-4
    羽田イノベーションシティK207
    ■本社
    神奈川県横須賀市光の丘5-3
  • 代表者:代表取締役 柴尾雅春
  • 設立:1967年(昭和42年)2月13日
  • 事業内容:エンジニアリングプラスチック製品(工業用ファスナー、精密成形製品)他
  • ホームページ:https://www.nifco.com/