ico_imgインタビュー:MOVeLOT株式会社(東京都墨田区)

搭乗型ロボット体験で感動を創造する、世界的リーディングカンパニーへ

廣井健人氏
MOVeLOT株式会社 代表取締役 CEO 廣井健人氏。「動く『MOVE』と、ロボットに搭乗するパイロット『PILOT』の2つを掛け合わせ、社名としています」

ビジネスに関連するロボットといえば、産業用やサービスなど、人間に代わってさまざまな作業を行うAIを搭載した自律型が大多数を占めています。そんななかで人間が搭乗して操縦を体験する「エンターテインメント」の領域に特化し、成長を続けているのが、2023年2月に創業したMOVeLOT(ムーブロット)株式会社です。

 

「ロボットエンターテインメントのビジネスは、ターゲット層の明確化や技術革新によって、より収益化が期待できます」と話す同社代表取締役 CEO 廣井健人氏に、事業内容や展望、東京都・墨田区立地の魅力などをうかがいました。

●ロボット操縦体験をひとつのストーリーに仕立てる
ROBOT BASE-00-
「ROBOT BASE-00-」にはVRのシューティングゲームなどがセットされている。搭乗型ロボット「ASTRO」に乗り込む前にここで“前哨戦”を行う
ASTRO
写真中央が「ASTRO」。工事現場のフェンスは戦闘が行われる現場のリアリティーを出すともに安全冊の役割も。極彩色のライトアップが非日常感を高める

いわずと知れた世界に冠たるアニメーション大国・日本。なかでも「人間がパイロットとして乗り込んで操縦する搭乗型ロボット」が活躍するアニメは作品数が多く、一大ジャンルを築いています。およそ半世紀もの歴史があり、幅広い年代の根強いフォロワーが国内外に存在しています。

 

「そうした方々は、一度くらいは『自分でロボットに乗って操縦してみたい』と夢見たことがあるはず。我々はそれを現実のものとする空間を提供しています」

 

廣井氏によると、現在、搭乗型ロボットをビジネスとしている企業は世界に10社ほどあり、そのうち6社前後が“発祥地”の日本に集中しているとのこと。

 

「MOVeLOTの強みは、ロボットの精度もさることながら、ロボットを操る体験をストーリーに仕立て、希少性の高いエンターテインメントとして、時間と空間をドラマチックに楽しんでいただけることです。現在、当社には2つの体験拠点があります。そのひとつ『ROBOT BASE-00-』では、まず、VRのシューティングゲームやライド式のロボットゲームに挑戦していただきます。そこであるミッションが発生し、次に、そのミッションをクリアするために搭乗型ロボット『ASTRO』のコックピットに乗り込み、リアルのガトリング銃で敵を倒すという一連のプロセスを用意しています。このアクティビティは計約60分で、最大4名様まで体験いただけます」

 

「ROBOT BASE-00-」のチケットは原則的に海外サイトで扱っており、利用者はほぼインバウンドに限定。営業開始は2023年10月で、機体改修、メンテナンスなどで実質的な開業日数は半年ほどですが、その間に約30ヵ国から合計約600名の外国人観光客が訪れたとのこと。SNSでの評価も高く5つ星を維持しており、リピーターも数多いそうです。

                                  
●夢のコラボで、あの名作ロボット搭乗も現実に
「パトラボ」に設置された「イングラム」
「パトラボ」に設置された「イングラム」。高さ約5m。開発・設計と製作で約半年を費やした。搭乗時は左の階段を使い、胸部のコックピットに乗り込む
シャツなどの販売
『機動警察パトレイバー』に登場するキャラクターが身につけているシャツなどの販売も。なかなか購入できないレアアイテムで、高い売れ行きを示しているそうだ

そしてもうひとつの体験拠点が「ROBOT BASE-00-」から徒歩15分ほどの場所にある「パトラボ」。「ASTRO」がMOVeLOTオリジナルの搭乗型ロボットであるのに対し、ここに設置されているのは、近未来SF・ロボットアニメの名作『機動警察パトレイバー』に登場するロボット「イングラム」です。原作を忠実に再現したフォルムもさることながら、パイロットがセンサー付きの特殊なグローブを装着し、指や腕を動かすと、イングラムが同じ動作をするのは、ファンはもちろん、そうでなくとも感動的な体験です。

 

「著作権を有する企業との交渉を経て実現した、夢のコラボです。イングラムのお客様は原則的に日本の方に限定しまして、2024年10月の1ヵ月間、試験的に営業したところ、約900名の方々にお越しいただきました。既存の原作のデザインに合わせてハードウェアを設計・製作しなければならなかった点は困難でしたが、その苦労も吹き飛ぶような高い評価をいただけました。900名のなかにはリピーターも多く、なかにはご自分で用意した原作の登場人物のコスチュームを着て操縦したり、感激のあまり涙ぐんだりする方もいらっしゃいました。2024年12月以降、本格的に稼働を開始するのですが、早くも1月までのパイロット体験ができる搭乗プランは完売しています。この調子で体験者数を伸ばしていきたいと考えています」

 

ロボット操縦の体験者数を増やしていくというMOVeLOTの方針は、2体のロボットに共通する“特徴”からも知ることができます。

 

「『ASTRO』『イングラム』ともに“脚”がないのです。脚があれば自立歩行ができ、行動半径が一気に広がりますから、搭乗体験がより面白くなるのは想像に難くないのですが、半面、製作期間が長引く、コストが跳ね上がる、安全面の不安の増大、背が高くなることによる機体の保管環境の制限、メンテナンス費の高騰等々、さまざまな課題が生まれます。やがてそれらはチケット代に転嫁せざるを得なくなり、搭乗体験者数の減少を招くでしょう。そこで、あえて“脚を付けない”設計方針としたのです」

 

この設計方針が吉と出ているのは、前述した「ROBOT BASE-00-」「パトラボ」の盛況ぶりからも明らかでしょう。移動ができないことを補って余りある非日常体験が、多くの人を魅了しているのです。

                                  
●東京、墨田立地のメリット~圧倒的なマーケットと協業チャンスの増大
パトラボの入口
写真正面下の扉がパトラボの入口。錦糸町駅にほど近い利便性の高い場所にこうした倉庫が現存していることも墨田区の強みといえる

最後にMOVeLOTが拠点を構える、東京・墨田区の魅力をおうかがいしました。

 

「ロボットをつくるだけなら東京にこだわる必要はないのですが、当社のこだわりである“操縦体験者を増やす”という点では、やはり、お客様となる人の数が圧倒的に多い東京のロケーションは大きな魅力です。ではなぜ墨田区を選んだのかといえば、それはほぼ偶然でした。東京都内でスタートアップ向けのインキュベーション施設を探していたところ、墨田区横川に、ロボット製作に最適な高い天井高、高い耐荷重の床を備えた作業スペースを備えたベンチャー企業向けのインキュベーション施設『センターオブガレージ』があることを知り、そこに入居できたことが、墨田区で仕事を始める第一歩になったのです」

 

墨田区にはインバウンド集客の面でも大きなメリットがあります、と廣井氏は続けます。

 

「特に『浅草寺・東京スカイツリー・秋葉原』というインバウンドに大人気の3スポットが近いことで、大きな恩恵に預かっていますね。この界隈には私が知る限り90軒近くのホテルがひしめいており、外国人観光客の利用も極めて多い。インバウンド向けの『ROBOT BASE-00-』にアクセスしてもらいやすいのです」

 

墨田区に拠点を置いたことで、スタートアップとスポンサー企業や地元のものづくり企業との出会いの場である「墨田区産業共創施設SUMIDA INNOVATION CORE(SIC)」と関われたことも、成長の可能性を広げたとのこと。

 

「SICで東武鉄道様をご紹介いただき、コラボの可能性を得ることができました。このコラボ実現に向けて取り組んでいるのが、『ASTRO』の動力を油圧式から電動に換えるための機体改修です。電動化によって可動性が向上し、トラックに乗せても稼働できるなど場所を選ばす運用できるようになるため、例えば東武動物公園にトラックごと『ASTRO』を運び、トラックの荷台内部でロボット操縦体験をしていただきく、というプランを練っています。いわば“レントゲン車のロボット版”ですね。2025年の2月ころには実現する計画です。また、墨田区のふるさと納税返礼品として、イングラム操縦体験のチケットを出していただきました。どのくらいの反響があるのか楽しみです」

 

搭乗型ロボットを操縦する人を一人でも多く増やすために、いずれは『機動警察パトレイバー』以外のアニメともコラボして、新たな搭乗型ロボットを開発したいと意気込む廣井氏。2024年2月にはシードラウンド累計1.15億円の資金調達を完了しており、夢を叶えるための準備は着々と進んでいます。

公開日:2025年(令和7年)2月4日

【企業概要】
  • 会社名:MOVeLOT株式会社/MOVeLOT.Inc
  • 所在地:東京都墨田区亀沢2-13-2
  • 代表者:代表取締役 CEO 廣井健人
  • 設立:2023年(令和5年)2月10日
  • 事業内容:搭乗型ロボットプロデュース事業、搭乗型ロボット骨格基盤の開発、ロボット開発受託事業
  • ホームページ:https://movelot.co.jp/