![]() | インタビュー:全薬工業株式会社(東京都文京区) |
■ | 蓄積した創薬技術を活かし、独創的な製品開発に挑む製薬企業 |
![幕内智之氏(右)と、総務部課長の小畠康弘氏(左)](../img/voice_023_01.png)
総務部次長 幕内智之氏(右)
総務部課長 小畠康弘氏(左)
東京都文京区に本社を置く全薬工業株式会社は、日本を代表する製薬会社のひとつです。OTC医薬品を中心に、幅広いフィールドで独自性のある製品を手がけ、その歴史は70年以上に及びます。
2021年夏には、研究開発センターを練馬区から八王子市に移転。緑豊かな周囲の風景に溶け込む新施設は、近隣住民にも歓迎されているとか。
今回は、稼働から1年が経過した研究開発センターを訪問。移転プロジェクトに携わった同センター総務部次長の幕内智之氏と総務部課長の小畠康弘氏に、移転の経緯や新施設のこだわり、今後の展望などを伺いました。
![外観](../img/voice_023_02.png)
![クスノキ](../img/voice_023_03.png)
![ロビー](../img/voice_023_04.png)
「弊社の創業は1950年7月です。現在は、創業時から力を入れているOTC医薬品を中心に、スキンケア製品、健康食品、医療用医薬品の4本を事業の柱としています」(幕内氏)
OTC医薬品とは「Over The Counter」の略で、薬局・薬店・ドラッグストアなどで購入できる医薬品のこと。この分野では、1958年に発売が開始された総合感冒薬ジキニンシリーズを筆頭に、ドックマンシリーズ、リコリスシリーズなど、長年にわたって利用者に支持される製品が多数あります。最近は「ココロの健康」にも注目し、不安を感じている方に寄り添えるアロパノールメディカルシリーズという医薬品にも力を入れています。
「スキンケアの分野では敏感肌用スキンケアアルージェシリーズなど、健康食品の分野では医食同源の考えに基づく『養生』食品シリーズなど、長年培ってきた開発力と技術力を応用し独自性のある製品を提供しています。また、難病や希少疾病に対する治療薬の開発も製薬企業の使命のひとつと考え、医療用医薬品の創生にも取り組んでいます」(小畠氏)
全薬工業の製品開発を支えるのが研究開発センターです。練馬区から八王子市へ移転した経緯を伺いました。
「練馬区の研究開発センターは老朽化していたのに加え、年々研究の幅が広がり手狭になっていました。しかし、周辺は住宅地化が進み、施設を拡張することはできない。そこで会社が移転を決断し、2016年から移転プロジェクトがスタートしました。
移転先にこの地を選んだのは、本社(文京区大塚)から交通アクセスが良いこと、地盤が強く災害のリスクが少ないことなどが理由ですが、それだけではありません。創薬の研究開発は弊社だけでできることではなく、病院や大学と連携して取り組んでいく必要があります。今後を視野に入れてシナジー効果を期待できる立地、環境を選んだということです」(幕内氏)
![緑に包まれたガラス張りの外観](../img/voice_023_05.png)
![仕切りはガラス張り](../img/voice_023_06.png)
![事務ゾーン](../img/voice_023_07.png)
![事務ゾーン](../img/voice_023_08.png)
所内のいたるところにミーティングや雑談ができるフリースペースを設けている
2021年8月に稼働した研究開発センターは、京王相模原線南大沢駅から徒歩6分に位置します。敷地面積は約1万7千㎡、施設の広さは前センターの約1.7倍に拡張しました。
「設計コンセプトは、第一に近隣になじめる建物であること。敷地内に植物をたくさん配し、建物の色も周囲との調和を考えて選びました。研究施設の秘密めいたイメージを払拭するため、外から建物内の人の動きが見えるガラス張りの外観に。そのおかげか、近隣の方から『南大沢にようこそ!』と歓迎の手紙やメッセージをいただいたのは嬉しかったですね。
もう一つの設計コンセプトは、社員が働きながら時間の流れや季節感を感じられること。以前は高いパーテーションに囲まれた閉鎖的な空間で研究が行われていましたが、今はちょっと目を向けると窓一面に外の景色が広がり、気分をリフレッシュできます。もちろん、排気や排水など環境にも配慮した施設になっています」(幕内氏)
現在、同センターには80名弱の社員が在籍。3フロアからなる建物内は、働きやすさとコミュニケーションを重視したつくりが特徴だといいます。
「研究ゾーンの動線は効率的に、それ以外の共有スペースなどはあえて非効率的につくりました。研究ゾーンは部署にこだわらず、研究内容の近似性により機能的に集約。複合機は部署ごとに分散して置くのではなく、フロアの1カ所にまとめて設置。3階は食堂兼みんなのフロアとし、所内で食事をする際は必ず階を移動して食堂で取る決まりに。多少の不便さはあってもフロア内や上下階を行き来することで、社員同士が顔を合わせる機会を増やすのが狙い。みんなで空間を共有しコミュニケーションを増やすことが、新しいイノベーションにつながると考えています」(小畠氏)
![広い敷地](../img/voice_023_09.png)
![薬草](../img/voice_023_10.png)
近県を含め複数あった候補の中から、都内での移転を決断。医薬品はもちろん、化粧品や食品など、広範囲の研究に取り組む同センターにとって、東京立地のアドバンテージは大きいといいます。
第一に情報の集積。「創薬の研究開発には、情報の収集と集約が不可欠です。東京には最先端の治療や研究を行う病院や大学が集まっており、情報の収集はもちろんのこと、さまざまな分野で外部の医療機関や研究機関と協力体制を取りやすいといえます。とりわけ八王子市は近隣に複数の大学があり、産学官が連携し地域として新しい研究に取り組めるのではないかと期待しています」(幕内氏)
第二に交通アクセスの良さ。「情報収集のためには大学や病院を訪問する、学会に出席するなど、周囲とのつながりがとても重要です。リモートの学会も増えていますが、直接お会いしたいケースも少なくありません。国内外どこに行くにも便利な東京は、周囲とのつながりを保ちやすい。さらに当センターについていえば、2駅隣の橋本駅付近にリニア中央新幹線の駅が計画されており、名古屋・関西方面へのアクセスが向上するのもメリットです」(幕内氏)
第三は人材面。「研究開発センターは、さまざまな分野の多彩な能力を結集した組織です。東京には多くの大学があり、弊社が求める多様な人材を獲得しやすいと考えています。また、八王子エリアの大学生や子どもたちに、この場所に研究開発センターがあることで弊社に興味を持ってもらえたら、就職の際の選択肢になりやすいのではないでしょうか」(小畠氏)
最後に今後の展望を伺いました。
「当センターは、さまざまな方面との共同研究の可能性を視野に入れて敷地にゆとりを持たせているので、将来的に新しい研究のために新施設を設けることも可能です。今までやってきたことをここでしっかり定着させ、次のステップに向けてチャレンジしていきたいと考えています」(幕内氏)
全薬工業は八王子市の「企業立地支援条例」の指定事業者に指定され、新規事業のための設備導入が奨励金の対象となっているとのこと。行政の支援も活用し、新しいチャレンジが始まっています。
取材日:2022年(令和4年)12月20日(取材時は、説明者は説明時のみマスクを外し、取材スタッフはマスクを着用しております。)
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会社名: 全薬工業株式会社 -
住所: 東京都文京区大塚5-6-15 -
代表者: 代表取締役社長 橋本弘一
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設立: 1950年(昭和25年)7月19日 -
事業内容: 医薬品、医薬部外品、スキンケア製品、健康食品などの研究、開発、製造、販売 -
ホームページ: https://www.zenyaku.co.jp