エアコン、炊飯器、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、スマホ、パソコンのCPU、そして生成AI……私たちの生活に欠かせない、これらすべてのアイテムに使われているのが半導体です。
THKプレシジョン株式会社は、この半導体の製造における極めて重要な工程「超精密位置決め」のトップランナーです。同社代表取締役社長の飯田克彦氏に、事業概要や展望、合わせて、現在本社を構えている産業施設「MFIP(三井不動産インダストリアルパーク羽田)大田区産業施設」の業務環境などを伺いました。
代表取締役社長
飯田克彦氏
「超精密位置決め」は、対象物の位置を極めて高い精度で制御する技術のこと。1ナノメートル(10億分の1メートル)の精度が要求され、半導体をはじめ、医療機器、光学機器の製造、精密機械加工など多様な分野で不可欠なものとなっています。THKプレシジョンは、この超精密位置決めにおいて国内で大きなシェアを誇る企業。また、THKグループの一員として、国内すべての地域においてTHKグループで対応、サポートを行っています。
「日本製・自社開発のステージ(試料や加工対象物、顕微鏡などを正確に所定の位置まで動かすためのテーブル)メーカーであることから、お客様が求める個々の要件を満たすカスタマイズを、一品から設計・製造できることが他社にない強みです。製品は、駆動原理やストローク(移動量)などが異なる『ピエゾステージ』『ピエゾモーターステージ』『リニアモーターステージ』のほか、微小な力を高感度で測定・検出する『フォースセンサ』など、多彩なラインナップを揃えています。いずれも一般の方が日常生活で直接目にする機会はほぼありませんが、分かりやすい例では、テレビ、スマホ、パソコンなどのフラットパネルや、VA、ARなどで使うヘッドマウントディスプレイのモニターなどの製造・検査装置に活用されています」
同社は少数精鋭体制で、現在従業員19名。売上の多くを国内市場が占めていますが、近年では台湾、韓国を中心に販路を開拓しており、カスタム対応、アフターフォローなどのサービスで、海外市場のシェア拡大に注力しています。
今後、超精密位置決め技術なくして、さらに普及が期待される人工知能や自動運転技術の進化は望めないでしょう。市場の高精度・微小化ニーズの加速が見込まれる中、その要求を超える精度を実現させる技術向上や、コスト競争に対応するための体制強化を図っていくと飯田氏は力を込めて話しました。
THKプレシジョンが創業したのは2002年1月。1999年度から、科学技術振興事業団(現:国立研究開発法人 科学技術振興機構)が大学等の研究成果をベンチャービジネスにつなげていくために実施した「プレ・ベンチャー事業」の3社目となった大学発ベンチャー企業(当時の社名は「有限会社ナノコントロール」)が前身です。
創業時に社屋を構えた場所は品川区南大井。2009年にはTHKグループの一員になったことで練馬区に移り、その後、2017年に大田区東糀谷のTHKテクノセンターに移転しました。
「THKテクノセンター内のTHKプレシジョンの占有エリアは約300㎡。業務の拡大に伴って手狭になってしまい、早々に、より広いスペースの移転先を探し始めました。現在本社を構えているMFIPへの移転は2024年8月。以前の東糀谷から非常に近いので羽田空港と、品川・横浜への好アクセスというアドバンテージが変わらないのもさることながら、やはり、1,000㎡超の広大なスペースが大きな魅力でした」
MFIP内では、溶接作業などはできませんが、THKプレシジョンの業務は主に部品設計までで基本的に製造は外注しているため、特に問題はないとのこと。
「当社にとって画期的だったのは、広いスペースを自由にレイアウトして必要な作業スペースを分割、創出できたことです。入出庫、在庫の管理スペース、作業スペース、試験エリア、そして製品の品質維持と製造工程の安定性を確保するためのクリーンルームも設置できました。ホコリや異物の混入を極力抑えることで製品に悪影響を与えるリスクを低減でき、当社に大きなメリットをもたらしています」
引き続き、MFIPの魅力について伺いました。
「現在、当社の国内顧客のおよそ7割は関東圏を拠点としています。したがって品川、東京、新宿、横浜といった鉄道ターミナル駅や、首都高~各高速道路へのアクセスの良さは非常に利便性が高い。もちろん我々がお訪ねするだけでなく、お客様にとってもMFIPは足を運んでいただきやすい場所です。また、2025年3月、MFIPの前を流れる運河に、新たに青宙橋(あおぞらばし)が架けられたことで、東京モノレール整備場駅から徒歩3分となり、アクセス性が向上しました。
さらに、24時間365日利用可能、厳重なセキュリティ、防火・防災訓練の徹底や高潮対策によるBCP(事業継続計画)の重視体制、共用施設でのグリーン電力使用で入居企業の社会的価値が向上し、ESG投資の増加や顧客からの評価向上にも期待できることもMFIP入居のメリットであるとのこと。
「現在、MFIPへの入居を検討している企業には、床面積1,000㎡超をワンフロアで活用できる利便性に着目してほしいと思います。当社の場合は、設計、開発、試験、品質管理、出庫といった一連の工程が同一フロアで進められることで各セクションのコミュニケーションが密になり、社内活性化、新しいアイデアの創出、製品品質の向上など、多様な相乗効果を得ることができました。また、スケルトンの状態で天井高が約5.5mあるため、高さのあるリフター、アームなどを使う企業も適していると思います」