起業したらオフィスはどうする?オフィスの選び方や種類を解説
オフィスの選び方や種類を解説

起業を決意したら、考えるべき大切なステップのひとつが「オフィス選び」です。オフィスは、働きやすさはもちろん、事業の信頼性や事業展開にも大きく影響します。とはいえ、レンタルオフィスやシェアオフィス、自宅兼オフィスなど選択肢が多く、どれを選べばよいか悩んでしまう方も少なくありません。

本記事では、代表的な6つのオフィス形態について、それぞれのメリット・デメリットを比較しながら紹介します。オフィス選びでお困りの方は参考にしてください。

1.起業した際のオフィスの選び方

オフィスは、一度契約してしまうと簡単には変更できないため、自社の事業内容や今後の展開を見据えたうえで、慎重に検討する必要があります。以下の6つの観点を確認し、自社に最適なオフィスを選びましょう。

①費用

オフィス選びにおいて「費用」は、立地や設備と並んで非常に重要な判断材料のひとつです。とくに起業初期やスタートアップ企業にとっては、限られた資金のなかでいかに効率的に運営を始められるかが、今後の事業の成否に直結します。

費用を検討する際は、月々の賃料だけでなく、初めにかかる「初期費用」と継続的に発生する「ランニングコスト」の双方を正確に把握する必要があります。

初期費用とは、契約時に発生するまとまった支出のことで、主に敷金・礼金、仲介手数料、保証金などが該当します。加えて、オフィス内の内装工事費や、電気・電話・インターネットといったインフラ整備費用も見込む必要があります。

さらに、業務に必要なデスク、椅子、キャビネット、コピー機、パソコンなど、オフィス家具やOA機器の購入費も必要です。これらはすべて初期段階での大きな出費となるため、余裕のある予算を設定しておくと安心です。

一方、ランニングコストとは、オフィスを維持・運営していくうえで毎月継続的にかかる費用のことです。代表的なものとしては、賃料、共益費、管理費があり、それに加えて水道光熱費(電気・ガス・水道)やインターネット・電話といった通信費、場合によっては清掃費やセキュリティ費用も含まれます。

②立地

オフィスの立地は、単なる場所選びではなく、企業の成長や信頼性を大きく左右する重要な要素です。立地が及ぼす影響は多岐にわたり、たとえば企業のブランドイメージの形成、人材採用、営業活動の効率、さらには従業員の働きやすさにまで関わってくると考えられます。

たとえば、従業員の通勤利便性や取引先とのアクセスを重視する場合は、主要駅からの距離が近く、複数の路線が利用可能な交通の要所が理想的です。

また、立地は企業のイメージづくりにも大きく貢献します。たとえば、ビジネス街や再開発エリアなど、知名度や信頼感のあるエリアにオフィスを構えることで、企業のブランディングや信用力の向上につながります。

さらに、従業員の満足度を高めるには、周辺環境にも注目が必要です。ランチや打ち合わせに適したカフェや飲食店の有無、日常の利便性を左右する店舗の充実度なども重要な判断材料となります。

加えて、安全で快適な労働環境を確保するうえでは、周囲の治安や地域特性についても事前にしっかり調査することが不可欠です。夜間の人通り、街灯の有無、近隣施設の様子などを確認し、従業員が安心して通勤・退勤できる環境かをチェックしておきましょう。

③面積

オフィスの面積は、現在の従業員数や事業規模に応じて決めるのはもちろん、今後の成長や人員の増加、事業展開の可能性も踏まえて検討する必要があります。スペースが狭すぎると、業務効率の低下や従業員のストレスにもつながります。一方で、必要以上に広すぎると、無駄な賃料が発生し、経営コストの増加を招く恐れがあります。

一般的に、1人あたりに必要とされるオフィス面積は3〜5坪(※)程度とされていますが、これは業種や業務内容、働き方によっても変わります。たとえば、資料や機材を多く使用する業務では広めのスペースが求められる一方で、リモートワークやフリーアドレスを導入している企業では、1人あたりの面積を抑える工夫も可能です。(※)法的基準ではありません。業務内容や働き方に応じた柔軟な判断が求められます。

また、オフィス面積の設計では、執務スペースだけでなく、会議室や応接室、リフレッシュスペース、倉庫、ロッカールーム、社内カフェコーナーなど、共用スペースの充実も重要です。

オフィスの面積選びは、単なる広さの問題ではなく、従業員の快適性、生産性、そして企業の成長戦略に直結する重要な判断ポイントです。将来を見据えつつ、無駄のない空間設計を心がけましょう。

④利用時間

オフィスの利用時間が、自社の働き方や業務スタイルに合っているかどうかは、物件選びにおいて見逃せない重要な要素です。とくに、フレックスタイム制やシフト制、深夜稼働のある業種にとっては、利用時間の制約が業務効率や従業員の働きやすさに大きく影響します。

近年では、24時間365日利用可能なオフィス物件も増えてきましたが、単に「出入りが可能かどうか」だけで判断するのは危険です。たとえば、夜間や休日はビル全体の空調が止まるケースがあり、真夏や真冬の深夜業務では快適な労働環境を維持することが難しくなる可能性があります。

また、エレベーターが止まる、共用部の照明が消える、ビルの管理人が不在になるなど、時間帯によって使用環境が大きく変わる場合もあるため、利用可能時間だけでなく、その時間帯における施設の稼働状況も確認することが大切です。

⑤法人登記の可否

法人を設立して事業を行うには、法務局へ本店所在地の住所を登記する必要があります。オフィスの住所が法人登記に利用できるかどうかは、契約前に必ず確認すべき重要なポイントです。

物件によっては契約書に「法人登記不可」と明記されているケースもあります。登記可否は後から変更できないことも多いため、契約書の記載内容は細かい部分までしっかりとチェックしましょう。

⑥設備の便利さ

オフィスにどのような設備が備わっているか、また利用可能かどうかは、業務の効率や快適さやコスト面に大きな影響を及ぼします。とくに起業初期は、自社で設備を一からそろえるのが難しく、必要な設備があらかじめ整っているオフィスは非常に魅力的です。

たとえば、インターネット回線やセキュリティ体制などの基本的なインフラ、プロジェクターやホワイトボードなどの備品も確認しましょう。複合機やシュレッダーなどが共用で利用できる場合、機器の購入が不要となり、コストの削減にもつながります。

2.賃貸オフィスのメリット・デメリットは?

賃貸オフィスとは、オフィスとして利用する物件を、契約期間を定めて借りる形態のオフィスです。一般的に、オフィスビルの一室を借りる形を指します。ここでは、賃貸オフィスのメリット・デメリットについて紹介します。

賃貸オフィスのメリット・デメリットは?

メリット

賃貸オフィスの最大の魅力は「高い自由度」です。内装やレイアウト、設備を自社の方針に合わせて自由に設計できるため、企業の個性やブランドイメージを強く打ち出すことが可能です。

また、物理的な拠点を持つことは、金融機関や大手企業との取引において評価されることがあります。シェアオフィスなどとは異なり、自社専用スペースを確保している場合、取引上安心材料とみなされるケースもあります。

クリエイティブな風土を重視する企業であれば、開放的な空間設計やロゴ・カラーを取り入れた内外装などで、来訪者にも印象的な企業イメージを伝えられます。さらに、セキュリティ面でも警備会社と提携した物件が多く、安心して業務に集中できる環境が整っています。

デメリット

賃貸オフィスの主なデメリットは「高額な初期費用」と「業務開始までの手間と時間」の場合があります。敷金・礼金・保証金など、入居時に必要な費用が高くなる傾向があります。また、物件探しから契約、内装工事、インフラ整備、家具の選定や搬入まで、実際に業務を始めるまでには数か月単位の時間と多くの労力がかかります。

さらに、契約期間が一般的に2年程度であることが多く、事業の拡大や縮小に応じた柔軟な移転や解約が難しいケースもあります。

3.レンタルオフィスのメリット・デメリットは?

レンタルオフィスとは、オフィス家具やインターネット回線などが完備された個室を、比較的短い期間で借りられるサービスです。ここでは、レンタルオフィスのメリット・デメリットについて紹介します。

レンタルオフィスのメリット・デメリットは?

メリット

レンタルオフィスの最大の魅力は「初期費用を抑えられること」と「事業規模に応じた柔軟な対応が可能な点」が得られる可能性がある点です。

一般的な賃貸オフィスでは、敷金・礼金・内装工事費などの初期投資が必要ですが、レンタルオフィスではそれらが不要な場合が多く、家具やOA機器もあらかじめ備え付けられているため、初期費用を大幅に削減できます。

また、1名用から複数名対応の部屋まで幅広く用意されており、事業の成長に合わせてスペースを拡張できる点も魅力です。

デメリット

レンタルオフィスの主なデメリットは「カスタマイズ性の低さ」と、長期的に見た場合の「割高なランニングコスト」の場合があります。個室ではあるものの、内装の変更や壁への加工などが制限されるケースが多く、自社のブランドイメージを反映したオフィス空間をつくるのは難しい場合があります。

また、共用スペースや設備が整っている分、同じ広さの一般的な賃貸オフィスと比べると、月額費用はやや高めに設定されています。そのため、利用期間が長期にわたると、トータルコストで割高になる可能性があります。

4.シェアオフィスのメリット・デメリットは?

シェアオフィスとは、ひとつのオフィススペースを複数の企業や個人で共有する形態のオフィスです。ここでは、シェアオフィスのメリット・デメリットについて紹介します。

シェアオフィスのメリット・デメリットは?

メリット

シェアオフィスの大きなメリットは「優れたコストパフォーマンス」と「他者とのつながりから生まれるビジネスチャンス」が得られる可能性がある点です。一般的な賃貸オフィスやレンタルオフィスの個室に比べ、月額利用料が非常に安価なため、起業時の負担を大きく軽減できます。

また、さまざまな業種の利用者が同じ空間で働いているため、自然な形で交流が生まれやすく、情報交換や協業、ビジネスパートナーの発見につながることもあります。人とのつながりが、ビジネス拡大のきっかけとなる可能性もあります。

さらに、都心の一等地にあるオフィスを低コストで利用できる点も魅力のひとつです。起業初期にコストを抑えつつ、積極的に外部の知見やネットワークを活用したいと考える起業家にとって、シェアオフィスは最適な環境の一つと言えるでしょう。

デメリット

シェアオフィスの主なデメリットは「セキュリティ面の不安」と「作業環境の集中しづらさ」の場合があります。不特定多数の利用者が同じ空間を共有するため、会話の内容が周囲に聞こえたり、PC画面が見られてしまうなど、情報漏洩のリスクが考えられます。

また、周囲の話し声や人の出入りが気になることで、集中力が妨げられると感じる人もいるでしょう。静かで落ち着いた環境で作業したい方にとっては、シェアオフィスは合わない可能性があります。

5.コワーキングスペースのメリット・デメリットは?

コワーキングスペースとは、複数の人が共同で利用できるワークスペースのことです。

シェアオフィスとほぼ同義で使われますが、コワーキングスペースは、利用者間の交流やコミュニティ形成を重視し、フリーランスや個人事業主などさまざまな人が利用できます。一方、シェアオフィスは企業単位での利用を想定し、比較的ビジネス的な利用が中心で、個々の作業に集中できる環境を提供する傾向があります。

ここでは、コワーキングスペースのメリット・デメリットについて紹介します。

コワーキングスペースのメリット・デメリットは?

メリット

コワーキングスペースの最大のメリットは「低コストでの利用開始」と、イベントなどを通じた「ほかの利用者との交流機会」が得られる可能性がある点です。コワーキングスペースのなかには、月額制のプランだけでなく、時間単位で利用できる制度を設けている場所もあり、必要なときだけ最小限のコストで作業スペースを確保できます。

また、交流イベントやセミナーが定期的に開催されており、新たな知識を得たり、人脈を広げたりする機会にも恵まれます。こうした交流から、新しいビジネスのきっかけが生まれることもあるでしょう。

デメリット

コワーキングスペースのデメリットは、シェアオフィスと同様に「情報漏洩のリスク」と「作業環境の不安定さ」そして「法人登記が難しい」の場合があります。

フリーアドレス制を採用しているため、混雑時には希望の席を確保できなかったり、落ち着いた環境で作業できなかったりする場合があります。

さらに、不特定多数が出入りするスペースでは法人登記が認められないケースもあります。機密性の高い業務を行う場合や、安定した作業環境・法人の拠点となる住所が必要な場合には、コワーキングスペースは不向きといえるでしょう。

6.バーチャルオフィスのメリット・デメリットは?

バーチャルオフィスとは、事業を行う上で必要な住所や電話番号などを、実際のオフィスを借りることなく利用できるサービスです。郵便物の受け取り・転送や、電話応対代行などのサービスも提供される場合もあります。

ここでは、バーチャルオフィスのメリット・デメリットについて紹介します。

メリット

バーチャルオフィスの最大のメリットは「圧倒的な低コスト」と「都心一等地の住所を活用できる信用力」などが挙げられます。です。実際の作業スペースを借りる必要がないため、月額数千円(※)という非常にリーズナブルな料金で利用できるのが大きな特徴です。
(※)利用目的や必要な機能に応じて、料金が変わります。

安価な料金にもかかわらず、法人登記やウェブサイト、名刺などに、バーチャルオフィスの住所を記載できるため、コストをかけずに企業の信頼性を高めることが可能です。自宅で業務を行うフリーランスや、営業活動が中心で物理的なオフィスが不要な起業家にとっては、非常にコストパフォーマンスの高いオフィスです。

また、郵便物の受け取りや転送といったサービスも利用でき、自宅住所を公開せずにビジネスを展開することが可能です。物理的な場所を持たずに事業を始めたい方にとって、バーチャルオフィスは実用的な手段といえるでしょう。

デメリット

バーチャルオフィスのデメリットは「実際の作業スペースが存在しない」という根本的な制約があります。そのため、日々の業務は自宅やカフェ、別のワークスペースで行う必要がある場合があります。

また、人材派遣業・不動産業・士業など、特定の業種では法律上、専用の事務所を設ける必要があり、バーチャルオフィスの住所では開業許可が下りない場合があります。加えて、一部の金融機関では「事業実態が不明確」と見なされ、法人口座の開設に制限がかかることもあります。

チームでの作業が多い事業や、高い信用性が求められる業種では、バーチャルオフィスの利便性がデメリットになることもあります。自分の業種や事業内容が利用に適しているか、事前にしっかりと確認しておくことが大切です。

7.自宅兼オフィスのメリット・デメリットは?

自宅兼オフィスとは、居住している自宅の一部を事業用のオフィスとして利用する働き方です。フリーランスや個人事業主を中心に広く採用されており、起業初期の一般的な形態として知られています。

ここでは、自宅兼オフィスのメリット・デメリットについて紹介します。

自宅兼オフィスのメリット・デメリットは?

メリット

自宅兼オフィスの最大の利点は「コストをほとんどかけずに仕事を始められること」と「通勤時間がゼロになること」が得られる可能性がある点です。オフィスを別途借りる必要がないため、賃料などの固定費を大幅に抑えられます。

また、通勤が不要になることで、満員電車などのストレスから解放され、空いた時間を業務やプライベートに充てられます。さらに、自宅で使用する通信費や光熱費の一部を経費として計上できるのも魅力のひとつです。

事業の立ち上げ段階で徹底的にリスクとコストを抑え、自分のペースで仕事を進めたいと考える起業家にとって、自宅兼オフィスは最も手軽なオフィスといえるでしょう。

デメリット

自宅兼オフィスには「公私の境界が曖昧になること」と「社会的な信用を得にくいこと」といった課題もあります。生活空間と仕事空間が同じであるため、オン・オフの切り替えが難しく、集中力が続かないと感じるケースもあるでしょう。

また、法人登記や名刺に自宅住所を記載することで、プライバシーが侵害される可能性もあります。とくに家族と同居している場合は、第三者に住所が知られるリスクを慎重に考慮する必要があります。

さらに、自宅をオフィスとして使用していることで、取引先に「資金力がない」と見なされ、信用面で不利になることもあります。応接スペースがないため、来客対応や打ち合わせにはカフェや外部施設を利用せざるを得ない場面も出てくるでしょう。

自宅兼オフィスは、自己管理能力が求められる環境です。信頼性やブランド力が重要になる成長フェーズでは、独立したオフィスの必要性が出てくる可能性もあるため、将来の事業展開を見据えた柔軟な判断が求められます。

8.まとめ

起業時のオフィス選びには、賃貸オフィス・レンタルオフィス・シェアオフィス・コワーキングスペース・バーチャルオフィス・自宅兼オフィスなど、さまざまな選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社の事業内容や成長フェーズ、そして「何を重視するか」という視点から、最適な形を見極めることが大切です。

とはいえ、多くの選択肢のなかから、自社に合った物件を見つけ出し、納得のいく条件で契約を進めるのは簡単ではありません。選択を誤ると、後々の経営にも影響が出る可能性があります。

こうした場面で頼りになるのが、専門家によるサポートです。東京都企業立地相談センターでは、都内でオフィスや店舗、工場、倉庫、事業用地などを検討する企業・個人事業主に対し、東京都の委託による総合相談窓口として支援を行っています。

希望条件に合った物件情報を複数の不動産会社に一括で照会するサービスや、企業立地支援制度・産業振興施策の情報提供、さらに専門アドバイザーによる対面での相談対応など、さまざまなサポートを受けることができます。

登録している不動産会社は1,000社以上にのぼり、ネットだけでなく対面でのやり取りが可能です。「自分に合ったオフィスがわからない」「信頼できる物件情報を探したい」とお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。

※本記事は、起業時のオフィス選びの参考として一般的な情報をまとめたものです。 東京都企業立地相談センターでは、賃貸オフィス等の事業用物件を中心にご案内しており、コワーキングスペースやバーチャルオフィスなどの個別情報提供は行っておりません。あらかじめご了承ください。